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1人の球児がゴールを見つけて開花するまでの話〜コーチ、僕はもうダメなんでしょうか?〜


小出コーチ。僕はもう、ダメなんでしょうか?
 
僕自身が受け持たせて頂いた高校の、ある1人選手から、ポロっと出てきた一言。当時投手をしていた彼は、思い通りのプレーができず、彼はベンチで1人、下を向いて泣いていたことが今でも鮮明に心に残っています。
 
何をやっても上手く行かず、上手く投げられない。捕れない。全てが上手く行かず、何もかもがイヤになった彼から出てきたのは、悔し涙であり、自分に対する苛立ちや絶望の気持ちだったかもしれません。
 
自分の思った通りにいかない選手
実力が発揮できない選手
 
野球だけではなく、会社や組織の中で何かに取り組む上で、必ず「自分はダメかもしれない」と感じてしまう選手や社員は必ず現れます。あれだけ好きだった野球がいきなり大嫌いになってしまったり、投げやりになってしまうケースも少なくありません。
 
しかし、そんなときこそコーチの出番です。その選手に寄り添いながら、共に苦難を乗り越え、心に描く最高の未来を獲得するために、できることはたくさんあります。
 
今日は、実際に僕自身がコーチとして経験した事例を基に、「自分に絶望してしまった選手」にどのように寄り添ってあげるべきなのか、コーチとしてどういった考え方で共に歩んでいくといいのかをご紹介します。
 
どんな時でも、コーチの役目はシンプルです。脳機能科学や認知科学をベースにしたコーチングは、スポーツはもちろん、ビジネスや人間関係など様々な場面で大きな武器となります。そして、1000人以上のコーチング経験がそれを裏付けてくれています。
 
僕自身のキャリアの中でも、特に心に残っている話を基にしながら、今回は分かりやすく解説していきたいと思います。
 

セルフトークとエフィカシー

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僕はこんなところがダメで・・・
こんなこともできないなんて・・・
なんであの時にこんなことを・・・
 
まずは、徹底的に話を聞いていくことに徹するのが、コーチの役目です。彼の話を聞いていく中で分かってきたことは、自分が好きだったはずの野球が楽しくない。自分の思い描くようなプレーが全くできず、どうしていいかわからない。グランドに出てくるだけで、なんだか気持ちが暗くなる。そんな風に、彼のセルフトークはマイナスにアクセスしてしまっていました。
 
セルフトークとは、人間が無意識に自分に対して語りかける言葉のことを言います。人間は一日に4~6万回のセルフトークを無意識に行なっていると言われています。
 
自分の思い通りのプレーができず、何をやっても上手くいかない・・・。彼の中でそんなセルフトークがエフィカシー(自己能力の自己評価)を下げ、底なし沼とも言える悪循環に陥っていました。
 
しかし僕自身は、逆に彼のそこまでの「野球への熱意」に心を打たれていました。上手くいかず、涙を流し、コーチに対して自分の悩みを打ち明けてくれる。それは「今のままの自分ではなく、もっと変わりたい。良くなりたい」という証拠に他ならないからです。
 
本当に野球が好きなんだな。オレは、キミみたいな選手と一緒に野球ができて嬉しい。一緒に一つずつ、クリアしてみないか?
 
そんな一言に、彼の表情は一変しました。「自分はダメだ」というセルフトークの悪循環によって「自分は野球が好き」「もっと上手くなりたい」という気持ちがスコトーマ(心理的盲点)に隠れていたのです。そんなwant toな気持ち、ピュアな思いを、彼は徐々に思い出してくれました。
 
小出コーチ。僕にもできますか?
 
もちろんじゃないか!キミにしかできないことが必ずある。プレーでも私生活でも、チームに貢献できるヤツになれるぞ!
 
あのときは、1時間近くベンチで二人で話したでしょうか?彼の表情にどんどん生気が蘇ってくるのが見てとれました。「この表情なら、きっとやってくれる」そんな風に思ったことを今でも覚えています。
 

自分はどんな選手でありたいのか?

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キミは選手として、どんなプレーヤーになりたいの?
 
セルフトークを吟味し、エフィカシーを高め、脳と心が「過去志向」ではなく「未来志向」になってきたところで、次は「未来の自分」に対してゴールをイメージし、新しいコンフォートゾーンを作ることが大切です。コーチングの神髄は「ゴール設定」ありきです。
 
ゴールがあるからこそ、次に自分がすべきこと。心がけるべきこと。やり方や方法が見えてきます。
 
実は彼には、下級生の頃、憧れだった先輩がいました。控えの投手でしたが、140km/h近い直球と鋭いスライダーを投げ分ける本格派右腕の先輩に、強い憧れを抱いていたことを思い出しました。
 
○○先輩は、とにかくピンチでも全く動じずに、表情一つ変えないんです。それが凄くかっこよかった。そしていつも、スライダーで三振を取るんです。ストレートも凄く綺麗で、一度だけキャッチボールをしたときのことは今でも忘れません。僕たちのような後輩にもすごく優しくしてくれて、凄い勉強もできる先輩でした。本当に憧れていました。
 
少しずつ、彼自身の中で「未来の自分」へのセルフイメージができていきました。素晴らしい先輩に憧れていたことを思い出し、自分もそんな風に、周りから信頼される、立派な投手になりたい。そして甲子園で、自分の自慢のボールで三振を取りたい。そんな風に、未来への自分を少しずつ構築していきました。
 
 

ゴールがあるからこそ、道筋が見える

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彼のゴール設定は非常にシンプルですが、とても素晴らしいゴールを設定しました。
 
ストライクをいつでも取れるようにする。
変化球(スライダー)で三振が取れるようにする。
新しい変化球をもう一つ覚える。
どんなピンチになっても、上手くいかない時があっても決して表情に出さない。
後輩に優しくする。寮生活で後輩のお手本になるような振る舞いを心がける。
 
心からwant to(〜したい!)のゴールが決まれば、7割は終わったようなものです。ゴールを設定することでスコトーマ(心理的盲点)がはずれ、新しい方法や道筋は、勝手に見えてくるもの。ある日、その子は僕に提案をしてくれました。
 
小出コーチ!僕、サイドハンド(横手投げ)にチャレンジしたいです。
 
僕は、素晴らしい彼の提案を受け、
 
そうか!よし!じゃあ早速やってみようぜ!
 
そんな風にその日から、新しいピッチングフォームでの練習がスタートしたのです。
 
それからの彼は本当に凄まじい変化を見せました。それまでチームの中でも5番手、6番手の投手だったにも関わらず、わずか1ヶ月足らずで、エースすらも脅かすような投手へと成長していったのです。
 
サイドハンドから繰り出す130km/h中盤のストレートはクセ球で、シュートしたりスライドしたりと、打者を困惑させるボールになっていきました。スライダーは横に滑るように鋭く曲がる。そしていつのまにか、遊びで投げていたシンカーすら自分のものにしており、手のつけられないような投球を始めたのです。練習試合でも、その年の夏に甲子園ベスト4に入ったチームを完封してしまうなど、明らかな成長に周りの選手たちも驚きを隠せませんでした。
 
僕がコーチとして取り組んだのは、セルフトークを見直し、エフィカシーを上げ、ゴールを設定することだけです。
 
たったそれだけで、彼の中に眠っていた才能は次々と開花していきました。
 

<まとめ>

・セルフトークを変えることでエフィカシーを自分でコントロールする
・ゴールを設定することの大切さ。憧れやイメージを使って、なりたい自分のコンフォートゾーンを作ろう
・心からwant toのゴールがあるからこそ、見えてくるやり方や方法がある。逆にいえば、やり方や方法は重要ではない。